こんにちは。山道具ラボのShinです。
前号で「怖さと楽しみが半分ずつある」と書いた白馬岳へ、行ってきました。結果から言うと、いちばん良かったのは山頂を一度あきらめたあとの時間でした。
Trail Notes

八月二日、猿倉を六時三十三分に出発。白馬岳は初めてだった。大雪渓を登って村営頂上宿舎のテント場に泊まり、翌日は小蓮華山を越えて栂池へ抜ける一泊二日。
大雪渓は、写真で見るほど怖くはなかった。八月の雪はほどよく緩んでいて、表面にはスプーンカットと呼ばれる浅い窪みが無数に並ぶ。これがちょうど足がかりになって、チェーンスパイクの歯が素直に噛む。蹴り込む必要はまったくない。
怖かったのは、音のほうだ。登っていると、ときどきカラカラと乾いた音がする。石が転がる音で、そのたびに足が止まって、音のした方を探す。落ちてくるのは雪渓の上ではなく、両脇の岩壁からだった。自分たちの線まで届いたものは一つもなかったが、鳴るたびに体が固くなる。ヘルメットは雪渓に入る前に被って、抜けるまで脱がなかった。
標高2,140mで秋道に移る。前号で「上部が秋道に切り替わった」と書いたその四日後を、実際に歩いたことになる。雪の縁が持ち上がって、下が空洞になっていた。
そこから上はガスだった。2,400mを越えたあたりで雨が落ちてきて、テント場に着いたときには視界が10mか20mまで縮んでいた。雨のなか、設営に45分。午後、山頂までは行かなかった。あとわずかなのに、行っても白い壁を見て帰るだけだと思った。
それが十七時前に変わった。テントの外が明るい。出てみると雲が下がっていて、それまで一度も姿を見せなかった白馬岳の山頂が、はっきり出ていた。
行かない理由のほうが多かった。十七時を回っている。往復で一時間。ガスの戻りは早い。一度は行かないことにした。それでも十八時になっても雲は戻ってこず、行ってみようとどちらかが言って、慌てて支度をした。
登っている途中、斜面の下側のガスに人の形をした影が立った。頭と肩と、伸ばした腕。少し遅れて、そのまわりに淡いオレンジと緑の輪があるのに気づく。ブロッケンだった。

山頂には何人かいて、全員が西を向いていた。十八時五十三分、太陽が雲の層に触れて赤い半円になった。

翌朝、同じ山頂を五時三十九分に通過した。「昨日行ってよかったね」と言い合って、先へ進んだ。
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山の花名人(高山植物100種類以上)/山の雲名人(雲と空の現象34。それぞれに、昔から山で言われてきた観天望気を添えた)/山の鳥名人(野鳥97種。似ている鳥は組にして、まちがえたら2枚並べて違いを説明する)。
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